プレミアムな人々 – 菊池大介(ORBITER DESIGN)

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「SUWA皿da」を通して感じた、プロジェクトメンバーの熱さ


「SUWA皿da」とサラダ



2014年7月6日、「SUWAプレミアム」オリジナル商品第1号として、「SUWA皿da」が発売された。諏訪湖や八ヶ岳、諏訪エリアの市町村の地形が精巧に彫り込まれたサラダ用のクリスタルガラスの皿で、諏訪市が掲げた、健康増進・健康のまちの情報発信・地産地消を目的とした『食前諏訪サラダ事業』をPRする目的もあった。精密部品製造販売のケイ・エス・テクノス(諏訪市、現・株式会社ナノ・グレインズ)と、アルミ板を削り山岳の地形を精巧に再現した立体模型(山モデル)を製品化した佐藤製作所(岡谷市)のコラボ商品だ。

ここに菊池大介が加わったのは、3月。SUWAプレミアムを見据え、研究会として活動している時期だ。(株)ケイ・エス・テクノスの小松隆史社長から「新しい連携プロジェクトが始まる、デザイナーとして関わってみないか?」と声がかかった。最初の仕事が「SUWA皿da」のロゴとパッケージのデザインだった。


連携体だからこその、一択ではない選び方が新鮮

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「SUWA皿da」。企画書にタイピングされた漢字とアルファベットが混じった字面を眺め、菊池は思わず苦笑する。

「サラダを食べるため、諏訪で作られた、というダブルミーニング。通して意識していたのは、アルファベットと漢字が並んだ字面の違和感をできるだけ取り除いて商品名をひとつながりの単語として成立させること、けれど溶け合いすぎると印象が薄くなるのでちょっとした違和感も重要だということ。またサラダを食べるための皿なので、フレッシュさ、流れるような印象も重視しましたね。」


12案を提案したが、絞っていく段階で、日常で使う食器だからこそ、女性社員の意見を参考にしようということなり、ほぼ満場一致でそれは確定した。

続いて取りかかったパッケージも10案を提案したが、選ばれたものは、意外や箱にロゴだけをあしらったもっともシンプルなデザインだった。



「初めて見る人には、デザインされてないんじゃないの?って思われるくらい真っ白なシンプル案(苦笑)。でもデザインで解決するという意味では、今回は店頭に並ぶ一般販売ではなく、1700枚・1250円(税抜)と、ロットもできていたので、装飾過多なものより最小限の包装が施されていることが大事だと思ってこの案をデザインしたんです。最終的には3案に絞られたのですが、小松社長から、パッケージをリ二ューアルすれば話題作りになるからキープしておきましょうと提案があって。今までの仕事は発注を受けてどのデザインにしますか?という感じでしたが、この時は連携体なのでいろんな意見が入ってきて、一択ではない選び方ができたのは新鮮でしたね」


製造業クリエイティブだと実感

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この時の体験は、すでに“街、町”を舞台にした仕事をいくつも実現していた菊池にとってもワクワク感のあるものだった。



「メンバーの歯車ががっちり噛み合い、小松社長も佐藤製作所さんもすごくテンションが高くて。まだ商品が完成していないのに、どんどん次のアイデアが出てくる。僕らデザインだけではなく、工業も、製造業もクリエイティブな仕事なんだと実感しました。0から1になったほやほやの状態に関わらせていただいて高揚しましたね。デザインは求められる内容や、どのタイミングでデザインをするかで全く変わってくる。だからこの時は、小松社長と佐藤製作所さんが感じていた、商品に仕上げたワクワクした盛り上がりをそのまま単純に拡声することに徹しようと思ったんです。脚色はしない、ありのままで十分だと」



“ありのまま”は、菊池がSUWAプレミアムに携わる上での根本のキーワードになっている気がする。その後、菊池はSUWAプレミアムのロゴ、御柱タオルの制作にもかかわった。


デザインとはデコレートではなく問題を解決するもの

菊地がデザイナーを目指したのは高校時代。岡谷工業高校の情報技術科をへて、京都造形芸術大学の情報デザイン学科コミュニケーションデザイン専攻へ進む。

「うちは原村のセロリ農家。ただ父親が早くからインターネットを始めたことで、田舎の小学生の活動範囲なんてたかが知れているのに、いきなり世界とつながって情報って面白いなと思った」のがすべての始まり。日系アメリカ人のグラフィックデザイナー、計算機科学者のジョン・マエダの書籍との出会いから、計算するための手段としてプログラミングが、情報伝達が、デザインの領域とリンクしていく。



大学では、それまでグラフィックだ、ウェブだとカテゴリー分けされていたデザインだったが、大学では、横断的に捉え、そもそも一つの情報を誰にどう伝えるかにより媒体を選ぶ、ということを学んだ。今の支えになっているのは「デザインとは問題を解決するためのものだということ。自分の感性で動くより、提示された問題にどう対処するか、それが一番」と言う。

菊池の場合、ファッション、おしゃれ、かっこよさなど、いわゆるデザインをイメージするキーワードに惹かれてデザインを始めたわけではないところがユニークだ。

だからこそ、あらゆる場面でデザインを当てはめて考えられるようになった。すると大学で学んでことを試したくなり、学生のまま起業し、仕事を通して実践的に「デザインで世の中に切り込んでいくのは面白い」ということを確認していく。


デザイナーが入ることで、モノづくりの魅力が広がれば

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京都での仕事は軌道に乗っていたが、菊池は卒業後、諏訪に戻る選択をする。「長男だから」という理由もあったが、その頃周辺で多かった「デザインやるなら東京。都会で生まれる最先端のデザインが良いデザイン」という印象をぶち壊したいという野心があった。

仕事量も予算も潤沢にあるから都会だからという理由にしばられていたら、デザインはどんな場所でもどんなことでも解決できるはずという僕の考えが破綻してしまう。僕がやっていることは、たとえビジネスマーケットとしては狭くても地元でデザインがやれるということの自分自身を使った人体実験(笑)」

諏訪がもちろん精密工業の地であることは知っていた。けれど、Uターンしてすぐの諏訪工業メッセで、地元の会社と多摩美大、千葉工大、京大の学生によるワークショップを手伝い、その凄みに触れる。



「学生がゼロから商品のアイデアを出すと、それを地元の工場の方が翌日に形にして、3日目にはさらにブラッシュアップしたプロトタイプを作るという。工場の方は徹夜しちまったよと言いがらも楽しそうに実現したものを持ってくる。するとまた学生のイマジネーションが爆発するんですけど(笑)、そうした無茶なオーダーにも対応してしまう」

この時の衝撃は今も克明に覚えている。そして自分が作ったものが目の前にいる人の役に立つと実感することは“やりがい”に直結する。町工場がヒット商品を生み出した事例も増えた。一歩踏み出すのは大変だが、下請けの会社がメーカーになれる可能性もある。そのために諏訪プレミアムは有効な手段の一つだと思っている。



「費用、ネットワークのサポートがあれば人やアイデアが集まる。そこに自社の技術を組み込んだ時に、思いもよらない飛躍をする、ほかのプロジェクトを見ていてもそう感じます。そこにデザイナーが入ることで何が便利だとか、コストに対してこういう効果があったとか、諏訪プレミアムがクライアントとしてデザイナーを誘ってくれてその使い方を知ってもらう機会になっているのが面白い。この地にもデザイナーはたくさんいる。僕はそういう皆さんとチームとしてモノづくりに挑んでみたいんです。わいわいやりながら、地域のポテンシャル、工場が持つノウハウ、精度の高い職人的な技術をどう捉え、どう発信していくか、お祭り感のあることをやってみたいですね(笑)」


諏訪の技術の凄みを、飾らず、ありのままに伝えたい

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だからこそ、菊池はデザインを通して“ありのまま”を伝えることが大事だと考えている。
「変に飾らないほうが、伝わる時代じゃないかなと。いかにも「デザインしました感」ではなく、一朝一夕にはできない凄みを読み解いて、この地の歴史、この技、この製品が生まれた物語をシンプルに伝えていく。急激に注目されるわけではないけれど、その積み重ねが諏訪の層の厚さ、産業の集積地ではあるけれど物語の集積地でもあることを知ってもらえることにつながる。縄文文化も諏訪大社もあるわけですから、地域をローカルなウイキペディアにしたら京都の次くらいに膨大になるかも。そう、ウィキペディア的発信! わかりやすく、うそにならずに、まとめて読みやすい場所に置いてあって、驚きや感動も盛り込まれている。そういうものこそ伝えたい人に届くと思うんです」


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この記事を書いた人

今井 浩一

岡谷市出身・岡谷市在住。高校卒業後、大学では油絵を学ぶ。放送業界紙「文化通信」記者、演劇情報誌シアターガイド編集長、まつもと市民芸術館広報を経て、『engawa』という屋号のもと、現在はフリーランスの編集者・ライターなどとして活動。演劇を軸にアート、クラフト、農業などのジャンルを不器用にこなす。

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